お母さんは本を読む時間がない

”ははがよむ” あおきともこのブログ

8.19回続いた「ちょっと本」と、わらべうたのこと

「ちょっと本」始動

  初回の「おかあさん、ちょっと本読んできていいよ」に申し込んでくれたのは3名で、そのうちの2名は知り合いだった。0歳の男の子1名、5歳と1歳半の姉妹、1歳7か月の男の子の4名。バラエティに富む構成だ。定員以下ではあるけれど、来てくれただけで嬉しい。

 受付(という名の座卓)で名前を確認し、料金を頂戴する。これが初めてのことで、とても申し訳なく思ってしまうのだが、お子さんを短い間でも任せていただく以上、少しも不安を感じずにいてほしいから堂々とするようにした。

  この会の趣旨と流れを短く説明し、簡単なわらべうたをする。その後、お子さんの荷物を預かって、おかあさん方には30分間図書館に向かってもらう。

 

 ……扉(ふすま)が閉まった途端、いや、母が自分を抱き上げずに立ち上がった瞬間だったかもしれない。「何かよからぬことが起きるようだぞ」と察した子どもが、母を慌てて追おうとする。

 想定内の反応に、私たちは笑顔で向き合う。

「ママは近くに行ってすぐに戻ってくるよ。本を読んでくるんだよ。遊んで待っていようね」「どんなおもちゃがあるかなー?」

 正直に状況を説明し、目の前の楽しいことに気持ちを向けてもらえるように、ちょうど良さそうなおもちゃをゆっくりと出していく。緊張しつつも、自分の子どもとのやり取りが思い出されて、じんわりする。

 

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 初回では、5歳のお姉ちゃんが重要なムードメーカーになってくれた。泣くこともなく、積極的におもちゃを吟味したり、絵を描いたり。その様子を、小さな子たちが泣きながらも凝視している。スタッフそれぞれで小さい子を抱っこしたり、おもちゃを動かせて見せたり、お姉ちゃんの絵に感心したりしているうちに、おかあさんたちは戻って来た。

 こちらの思うままにいかないのは当然で、子どもたちの遊びたい気分は終了時間が見えてくるころに盛りあがる。おかあさんたちの帰りを心待ちにしていたのは、むしろ私たちだったかもしれない。

 

 

 わらべうたの強さ

 子どもたちを守る責任感には自信があったが、やはり子どもを短時間でも託す側にすれば、資格があるのか、託して大丈夫なのか、と不安に思う人はいるかもしれない。チラシには、保険込みであることや ははがよむ のプロフィールとともに、「託児室ではありません。必要に応じてすぐにお母さんを呼びに行けることが条件となります」といった文言を入れて、私たちの取り組みやスタンスを了解していただくことにした。

  さらに、子どもたちにはできるだけおかあさんと離れる時間の辛さを減らし、楽しく過ごしてもらいたかったので、会の前後におかあさんとスキンシップをとりながら場に慣れる時間を設けることにして、その流れもチラシに明記していた。

 

 この”場慣れ”に大きく貢献したのが、わらべうただった。ちょうど仲間の一人が、下の子の幼稚園でわらべうたサークルに入っていた。わらべうたは、あらゆる年齢が楽しめるし、何も物がなくてもできるからなにしろ安全だし、いつでもどこでもできるという。

 私は初め「わらべうた」と言われてもほとんど知らず、ピンとこなかったので、彼女に仲間内の勉強会をしてもらった。すると、それとは思わずとも知っている歌はいくつかあったし、歌詞の内容も動きも自由で、とてもおもしろかった。

 くすぐったり、抱いてやさしく揺らしたりと、肌に触れることが安心感を生むのだそうだ。子どもたちが最後のくすぐりを期待してドキドキしている様子は、たまらなくかわいいが、そこに至るまでのステップを飛ばさずに行うことが大事なのだという。

 いつも同じように繰り返し歌うこと、一緒にやるかやらないか(乗るか乗らないか)は子どもに任せること、などのアドバイスも受けて、何度か練習した。抱き上げるには大きくなりすぎた実験台の娘も、それ以外の歌や動きは照れながらも嬉しそうに楽しんでいた。その後繰り返しせがまれたのには驚いた。

 

 「ちょっと本」でやるなら、顔のパーツを一つひとつたどっていく「おでこさん」や「にゅうめんそうめん」、色がきれいなシフォンスカーフを使った「にぎりぱっちり」もいいかも。歌の案はいくらでも出てきた。

 一方私は、子どもの前で歌うなんて最も苦手なことだったが、わらべうたリーダーの見振りを盗み見しながら、脇で一緒にやることにした。

 実際に「ちょっと本」でやってみると、子どもたちの反応は抜群だった。うたが聞こえた途端に動きを止め、全ての目が歌い手に集まるのを目の当たりにして、わらべうたの力を実感した。

 こうして、会の初めには上記のうたを、おかあさんが戻ってちょっとおしゃべりをした後、解散するときには体を動かす「おちゃをのみにきてください」を、というのが定番になった。

 

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走り抜けた19回

  「ちょっと本」開始後、和室を押さえた日が図書館休館日だった、という失敗があった。(公民館と休館日が違ったのだ。)パニックで血の気を失う私をよそに、メンバーは冷静に考え、自分たちの漫画を持ち寄って別室に並べ、「おかあさん、ちょっと漫画読んできていいよ」という別バージョンに仕立て上げた。

 こんな感じで私のうっかりも乗り越え、会の流れも見守りも安定してきたところで、お母さんの持ち時間を1時間に延ばした。近所のスーパーの掲示板にチラシを貼ってもらったり、あちこちの支援センターにチラシを配ったりするうちに、遠い地域からも来てくれる方が増えてきた。

 続けるうちにリピーターも出てきて、子どもの成長を感じることもあった。前は泣かなかった子が、記憶力がついて場所とスタッフを見ると「おかあさんと離れるやつだ」と気づいて泣くようになったり、ずっと泣いていた子が他の子を気遣うようになったり。一人の子どもしか育てていない私にとっては、月に一度、こうした成長を見ることで、赤ちゃん時代からみんなそれぞれ違うことがよくわかり、楽しかった。

 

 結局「ちょっと本」では、私たち ははがよむ のメンバーは本に触れるのではなくひたすら子どもと触れ合ったのだが、この時間におかあさんが図書館でリフレッシュしていることはわかったし、仲間と一緒に活動すること自体が楽しかったので、せっせと続けられた。

 この活動は2017年夏からほぼ月1回行い、2019年2月まで19回続いた。この後、市との協働事業化に進むわけだが、それはまた別の回で。