お母さんは本を読む時間がない

”ははがよむ” あおきともこのブログ

13.利用者がほしいものと、いまの自分がほしいもの

コロナで協働事業がストップ

 協働事業「小さい子どもを育てる人のための本の時間」も快調に進み、次年度に向けた提案も採択されて張り切っていた矢先に、「あいつ」がやって来た。

 人の集まる企画の中止の報せがあちらこちらから聞こえてきて、ついに私たちの事業でも2月後半以降で予定していた日程の中止が決まった。

 初年度がブツッと終了してしまったのはとても残念だったが、相手は得体のしれないウイルス。対策も固まらない中で託児や人が集まる企画を続けることはできないと、納得するしかなかった。

 

 やがて自分の子どもの学校も休校となり、ついには我々親の仕事もリモートや一部休止となってくると、家族全員がステイしたホームの中にはいびつな緊張とだらりとした停滞感が交互に膨れたり縮んだりして、たいして動いていないくせに疲労だけが溜まっていった。

 2020年度の協働事業の用意も宙ぶらりんとなり、「えーと、じゃあ、何をすればいいのかな……」と、動かない頭でもたもたと考えた。状況を打開すべく、世の中では次々と新しいアイデアが生まれていたが、ははがよむ が何をすべきか、なかなか浮かんでこなかった。

  

「コロナ禍」で子育てする人は

  ただ、図書館の託児サービスを利用したかった人たちのことを想像して、この状況で「小さい子どもを育てる人」たちがどんな思いでいるかと思うと、苦しかった。

 自分の子育てを思い返しても、産後数年(特に最初の1年)は子どもの体や動きの発達一つ一つが気になり、何が正常で何が心配なのかが分からず、小児科や検診で確認してもらうことで安心を得て、進んでいた。

 ところがその乳児検診まで延期になり(注:5月時点の状況)、親子広場も中止となったら、本当に孤独で不安なのじゃないだろうか。

 

 そう考えて嫌でも思い出されたのは、自分の子どもが0歳児のときに起きた東日本大震災だ。里帰り出産をした仙台から戻ってきて、1か月たらずのことだった。

 幸い実家には大きな被害はなかったが、よく知った場所が信じられない姿になり、たくさんの人が亡くなり、数では表しきれないほど多くのものが一気にうしなわれたことを報道で見て、文字通り胸がつぶれた。続いて福島の原発事故、計画停電、と自分の子どもの未来にも直結する恐怖と不安を突き付けられて、もう何がなんだかわからなかった。

 

 いま、目に見えないウイルスに翻弄されているお父さんお母さんたちも、同じような気持ちでいるのではないだろうか。

 そうだとして、ははがよむ にできることは何だろうか。本を読みたい気持ちなんておこるかな。図書館も閉館してしまったし、書店も閉めているところが多いから、本の紹介をしても読むことができないかもしれない。だいたい、本を読める状況にあるのかな……。

 

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 「応援を送る気持ちで」なんて他人事めいてはいるけれど

 悩みながらも、小さい子どもを育てている人への応援を送るような気持ちで、メンバーそれぞれがSNSでおススメの絵本を紹介する投稿をしたり、図書館や出版社などがコロナを機に開いた特設サイトをシェアしたりした。

 こうしたささやかな働きかけを、当時の私が受け取ったら喜んだだろうか? 

 すべて「わたしがほしい」から始め、常に「あの頃の私がほしかった?」と自問しながら進んできた ははがよむ だが、時間の経過とたくさんの人との交流を経て、私自身がずいぶん変わってしまったようだ。いったん足を止めて考えてみると、「当時の私がほしいかどうか」がわからなくなってきていることに気づいた。

 しかしいまは、それすら大して気にならなくなっている。そんな自問よりも「やってみよう」と思えることを、何でもやっておきたいという気持ちになっているのだった。

  

事業の再始動

 止まっていた協働事業は、9月から動き出すことが決まった。今年度は、ははがよむ スタッフが作る「本とおしゃべり とんとんとん (ともだち としょかん とおりすがり)」という場が事業に加わる。図書館託児サービスを利用した人もしていない人も、子どもと一緒にここに来て、本の話や子育ての話をできる気楽な場所にしたいと考えている。

 今年は人と会って話すことが難しい日々が続いているし、私自身のことでいえば、昨年はずっと一人で動いていて孤独だったので、仲間や利用者と会って話しができるのが楽しみだ。みなさんにとっても、ちょっとした息抜きになれば嬉しい。

  図書館と公民館、児童館をつなぎ、その中の人たちや私たちのような「ちょっと前まで小さい子を育てていた人」と、現在子育てに奮闘している人たちが交流できるような場所。そこで利用者と話しながら、「当時の私がほしい」だけではなく、「いまの人たちがほしいこと」を聞き、叶えていく段階に来ているのかもしれない。 

 そんな風に形が変わっていくのは、なかなか悪くない。どちらかといえば交流をやたら勧められることを苦手に感じていたはずの自分が、いまや交流の場を作っていることに違和感を覚えた時期もあったが、「本」を介して人が集まるなら楽しい、と思えるようになった。

 

 しかし同時に、いま現在の自分が欲しいものも、どん欲に求めていきたい。何ができるか。何をしたいのか。

 変わっていく自分の欲求も無視せずにいたら、またとんでもない衝動が生まれるかもしれない(少々怖いが)。

 

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おわりに

  ははがよむ を始めた時のことから現時点(2020年8月)までを振り返ったシリーズ「ははがよむができるまで」は、今回が最終回となる。

  これからは、ははがよむ がどう進んでいくのか、そして ははがよむ 以外での私と本のことを五月雨に書いていきたいと思う。

 いまと全く違う姿になっているかもしれないし、粛々と同じことを続けているかもしれないが、本のまわりをうろついていることだけは変わっていないような気がする。

 

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もし 「ははがよむ のようなことをやってみたい」「内容は違うけど、何か聞いてみたい」という方があれば、hahayomu@gmail.com までご連絡ください。

 図書館の託児サービスはもっと増えたら良いし、子育て中の人だけでなく、介護中の人も、近くに図書館や書店がない人、自分でそうした場所に行くのが難しい人もみんな、自分の本を読む時間を持つことができて、たまにはそうしたことを語らえるような場所があちこちに発生すればいいと思っています。