お母さんは本を読む時間がない

”ははがよむ” あおきともこのブログ

11. 無鉄砲の虫、ふたたび。「協働」にチャレンジ

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「ちょっと本」で貸し出された本(借りた方の了解の上撮影)


 月に1度の「おかあさん、ちょっと本読んできていいよ。」は、回を重ねるうちに少しずつ定員が埋まるようになってきた。

 チラシは育児支援施設や公民館、スーパーやカフェなどに置いてもらっていたものの、肝心の図書館にはしばらく話せずにいた。

「それは図書館の企画ではないし、責任は持てない」「紛らわしいからやめてほしい」などと言われるのでは……と、勝手に腰が引けてしまったのだ。

 だが、定員も安定してきたところで、思い切って階下の図書館にチラシを持って行き、館長にあたる方に簡単にお話しする機会をいただいた。すると、こちらの予想に反して「図書館の企画ではなく、あくまで一任意団体が自主的に行っていることが分かるなら、良いのでは」と、あっさり置かせてもらうことができた。それどころか、むしろ好意的に受け取られたようで、何度か「ちょっと本」の様子を見に来てもらえた。泣き、遊ぶ子どもたちの様子に圧倒されながらも、目を細めて様子を見ていただけたことに胸をなでおろした。

 図書館の了解(と明言できるものはなかったが)を得られたことで、だいぶ安心して、より堂々と自分たちのやっていることを人に話せるようになってきた。

  

 とはいえ、まだ足りないことはたくさんあった。

 市内の育児施設にチラシを持って行くと、「もっと近くでやってくれたら」と言われることがあったし、「ちょっと本」のアンケートでも「近くの公民館でやってもらえると嬉しい」という声もあった。

  たった月に一度、6人を見守るだけでは全然足りないということは、わかりきっていた。とはいえ、仕事を持っている人や自分の子どもの送り迎えもある人たちで構成される私たちのマンパワーでは、市内各公民館での開催は厳しかった。

 場所取りから保険加入に告知、申し込み受付、そして当日の見守りを限られた人数で行うのは、もう完全に「仕事」だ。確固たる資金源も確立していない状態で、私がそれをメンバーに「やってください」なんて言えるわけもない。

 

 そんなわけで、同じ会場で粛々と続けていたわけだが、それですら、無料で使用できる公民館施設は年々利用者が増えているのか、希望する日に和室の予約を入れることも難しくなっていた。メンバーが可能な日程をすり合わせた2~3日の候補日で決めなければいけないから、抽選結果がわかるまではハラハラして待つことしかできなかった。

 さらに、他のイベントのために集まったり、予備の予約をしたりしたくても、一つの団体は週に1コマまでしか予約できないことも壁の一つになっていた。

 

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和室で子どもたちと読んだ絵本の一部

 

 スタッフを増やしつつ、グッズ販売、ワークショップ開催などで資金を集めるか。活動趣旨をまとめたリーフレットを配って募金を集めるか。なんとか楽しさを失わずに活動を広げられないか考えを巡らしていたところに、市報の「協働型提案事業」の文字が目に飛び込んできた。

 

 もともとは、「やってくれるのを待っていられないから、自分でできることを始めた」プロジェクトだった。1年間「ちょっと本」をやってきて、たくさんの人のニーズも確信したのだから、改めて「行政と一緒に」やるという方向で持っていけないか、とは考えていた。市民活動センターの地域団体に登録したことで、「協働」という方法についても少し学んでいた。

 そのタイミングで、チャンスが到来したのだった。行政と協働すれば、市民団体とは別の枠で部屋を確保することもできるかもしれない。 

 慎重に条件を確認すると、どうやら条件には全て該当している。「もうこれは提案したら断られるはずがない」と、またおかしな自信と衝動にスイッチが入った。

 行ける! すぐ申し込まなきゃ。

  たまに発動されるこの衝動モードに突き動かされて、資料を提出した。

 

 しばらくして、協働事業を扱う部署から連絡があり、資料を見ながら内容について説明する機会が与えられた。

 条件を満たしているとはいえ、市のお金で行われる事業を渡せるかをチェックしなければならないのだから、審査は慎重だ。

 丁寧に話しを聞いてもらったが、この辺りから、「行政」という未知の海の中に入るような話が始まった。以前、協働事業に携わった方が「行政とは“言語”が違う」という表現をしていたが、確かにさまざまな進め方は、これまでやってきたどの仕事とも違っていて、戸惑うことも多かった。

 しかし、条件に「市の内部に熟知していること」なんて書いていなかったし、むしろそうではない外の人とやりたいと言っているのだから、と自分に言い聞かせて、堂々と「わからない」を繰り返して教えてもらった。

 

 主に協働するのは図書館課、ただし公民館も利用するので公民館課もサブ的な形で協働するということになった。図書館と公民館は同じ建物にあるのだが、課が違うということで、窓口から考え方、抱える事情などが全く違っていて、接点も少ないというのも驚きだった。

 とはいえ、これまで「ちょっと本」などで公民館にはかなりお世話になっていたし、図書館課からも見に来ていただいていたという経緯もあったせいか、想像以上に好意的に考えていただけた。

 こうして少しずつ理解したり、「わからない」と言ったりしながら書類審査をなんとか通過し、二次審査のプレゼンがやって来た。

 

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 ボランティアセンターの助成金を申請したときと比べたら、希望する金額も相対する審査員の数も会場も規模が大きくなっていたので、緊張しないと言えばうそになるが、初めてではなかったおかげで、ほどほどの緊張で挑むことができた。

 今回は一人きりではなく、協働課と共に提案するという体裁からの安心感もあったし、ははがよむのメンバーも見に来てくれたのは心強かった。

 

 審査員からの質疑では、ニーズをつかむためのアンケートの取り方に問題があることや、定員の少なさなど、かなり細かい部分まで指摘された。終了後は「行けるのか? だめか?」と半々の気持ちだった。

 これまで通りの「ちょっと本」を続けながら、「もしダメだったとしたら、この『ちょっと本』を続ければいいし、止めることだって自由だ」と思い直して、結果を待つことにした。

 

 2か月ほどして、二次審査も通過した連絡があった。合格ラインを何とか超える点数だった。

 「やったー!」という能天気な喜びよりは、「本当に決まったんだ……。これから大変だ」という緊張感がせりあがってきた。