お母さんは本を読む時間がない

”ははがよむ” あおきともこのブログ

4. ちょっと動いて見たら、理想と現実の深い溝に落ちそうになった話

電話をかけて聞いてみた

 託児サービスがある図書館の存在を知り、「本を読みたいお母さんのために何かやりたい」と、半ば焦るような気持ちでいた私は、すぐさまそのサービスについて知りたくなった。

 私は子どもが昼寝をしている隙に「託児」「図書館」の検索で見つかった託児サービス実施館を片っ端からメモして、順番に電話をかけていった。

 

 たどたどしくも電話をした理由を話したら、利用者でもない遠くの者からの唐突な問い合わせにもかかわらず、どの館も拍子抜けするほど親切に、丁寧に対応してくれた。

 以下は、その時のメモの一部からまとめたもの。 (2016年時点での状況)

 

 Y市立図書館

 アンケートでも以前から要望があり、子育て経験のある職員が「確かにあの頃は自分の本の時間がなかった」と声を上げたことがきっかけで託児サービスを開始することになった。保育者は地域の出張保育グループを探して依頼することになった。始めた当初は利用者が少なかったけれど、今では常連さんが多く利用している、とのこと。

 図書館が自分たちで考え、工夫して試行錯誤しながらがんばっているという温かさを感じた。

 

 K市立図書館

 1年前からスタート。市民ホールや保健センターの利用者と同じ託児室を利用できる。この託児室は年間2,3千人の利用があるといい、基本は予約制。運営はNPOに委託しているけれど、市の持ち出しもあるとか。それでも、託児がないと来られないという市民のために、民間の活力を導入してやっているという。

 施設に初めから託児室が据えられていただけあり、託児の必要性が当然のように頭に入っているという印象。財政的に厳しくても、必要だからやる、という感じ。そもそも専用の部屋があるのだから、工夫して続けていくのではないかと思う。

 

 T県立図書館

 1年前から託児サービスを開始。保育サポーターの研修を受けた職員がいたこと、予算編成時に財政課に育児中の人がいたことから「必要」の声が上がり、子育てに力を入れていくという県の施策にも合っていたので、決めた。利用者からも好評で、来年度の継続も決まっているとのこと。

 電話口で応じてくれた人がとてもイキイキと楽しそうで、シンプルに「あー、私もこういうサービス利用してみたかったなあ。いいなあ」と、うらやましい気持ちになった。

 

 この時点で私がなんとなくわかったのは、

・どこの託児サービスもこの1,2年(2016前後)に始まったらしい

・利用者には好評だが、財政的には楽ではない

・楽ではないけれど、担当者は意義を感じているらしい

といったこと。

 

 今振り返ると行政の予算決定のプロセスや、指定管理か直営かなどの事情の違いによるやりやすさ・難しさなども聞きたかったよね、と思うけれど、この時にはそんなことほとんど理解していなかった。ともあれ、実際にやっている人の声を聞くことでかなり具体的にイメージすることができたし、「できるんだ」という確信をつかんだ(気になった)のだった。

 

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「 ニーズは聞いていない」に驚く

「今電話で聞いたような他館の話をすれば、近くの図書館でもやってもらえるんじゃないか」

 話してくれた方々の好意的な反応によってたちまちポジティブに拍車がかかった私は、出かけついでに駅前の分館に寄って、無邪気に聞いてみた。

 

「すみません、市内の図書館では託児サービスなどはないのでしょうか? 他地域ではそうしたサービスがあると聞いたもので」

 

 受付けの女性は私と手をつないだ子どもに優しく目をやり、「託児サービスは、ないですねえ。確かに赤ちゃんがいるとなかなか見られないですよね」と共感を示し、そうした要望や問い合わせならここに連絡をしてみるとよいかもしれない、と電話番号を教えてくれた。 

  女性の優しい対応に勇気づけられ、今度は意気揚々と教えてもらった番号に電話をして、同じ質問を投げかけた。

 ここで、私の無邪気ポジティブ推進力は一旦下向きに軌道修正された。

 

「今のところ、そうしたニーズは聞いていません。ただ、このような声があったことは上げておきます」

 

 託児サービスを始めている図書館に電話したときには「ニーズがある」ことは共通認識のように話しが進んだので、この反応の違いには驚いた。電話を切った後しばらくの間、下向きの矢印になった私は次にやることがわからなくなって、ぼんやりと部屋に座っていた。

 

 数日後、いつものように子どもと図書館に行った。私が電話をかけてきた人物だなんてわかるはずもないのに、なぜかギクシャクしてしまう。

 居心地が悪くていそいそと出口に向かうと、壁に利用者から寄せられた声のいくつかが張り出されていた。予約についての質問や、図書館で過ごす人のマナーについての苦情など、読んでいるこちらが緊張してくる。それぞれに書かれた館からの返答をぼんやりと読みながら、私は了解した。

 

「そうか、声が聞こえなければ、ニーズは気づかれないんだ」

 

 じゃあ、気づいてもらえばいいんだなと、私は用紙に「小さい子どもと一緒だとなかなか自分の本を借りたり読んだりできないので、託児サービスのようなものがあったら嬉しい」と書き、ご意見ボックスにポン! と威勢よく放り込んだ。