3.ほしいものを考え詰めた、紆余曲折の後の託児案
子育て中でも自分の本を楽しむ時間を欲しいのは、自分だけじゃない。でも、そのためのものがない。そう感じた私の心には、「何かやるしかない」という思いが沸きあがっていた。
私だったら、どんなものがほしいだろう。
思いついたのは、部屋を借りることだった。赤ちゃん向けという雰囲気ではなくて、あくまでもお母さんがゆっくりと良い気分で好きな本を読める場所。デカフェのコーヒーや紅茶なんかがあれば、嬉しいかも。部屋にいる間、赤ちゃんは私が抱っこして遊んでいてあげよう。部屋の名称は「mom's reading room」とか「お母さんのための読書室」とか……。
「同じようなことをしている人が、既にいるかもしれない」と思ってネットで調べると、アパートの一室を借りて貸本カフェを開いたり、乳児の母だけが利用できる漫画喫茶を始めたりしている人がいた。なるほど、やっぱり近い思いを抱えている人はいる。でも、数は少ないし、バリエーションも多くない。早いうちに私なりのものを作りたい、という思いが強まった。
しかし、具体的に部屋を借りることを考えながら不動産情報を調べるうちに、はじめの勢いは失速していった。
当時私が求めていたのは「やたらと本のおススメをしてこない場所」。子どもがいようが、子どもを持つ前と同じように、あらゆるジャンルから自分が好きに選びたい。子育て広場で本の話というと、子育関連しかなかったことへの反発もあった。
ということは、ある程度さまざまなジャンルを網羅する量が必要だ。そうなると、小さなアパートの一室を借りて、できるだけ偏りない選書をするというのはかなり難しい。一室だからこそ「同室でちょっとの間なら私が赤ちゃんを見ていてあげられるよ」というメリットがあるのだが、そこで得られる楽しさは限定的になってしまうだろう。
毎月の賃料、光熱費に書籍代。雑誌を入れ替えるなら、定期購読も必要かもしれない。このお金は、どうする?
コーヒー代をいただく、会員制にして会費をちょうだいする、なども考えたけれど、どんどん守銭奴のようになって「お母さんからどうやってお金を取るか」を考えていることが嫌になってきてしまった。
そのうえ、他の心配も出てきた。「赤ちゃんは見ていてあげる」というが、自分の子どもはどうするのかを忘れていたのだ。うっかりにも程がある。
幼稚園入園を待てば解決するにしても、同室にお母さんがいるとはいえ、素人の私が人様の赤ちゃんを安全に見ていられるのだろうか。いや、その前に赤ちゃんが大泣きして、お母さんは読書どころじゃないかもしれない……。
私が部屋を借りないとすれば、どこが良いか。答えはわかりきっていた。
本が潤沢にある場所といえば、書店か図書館。そこで自由に本を見られるためには、子どもをどうするのかを考えるしかない。結局、少しの間離れるのが双方にとって最善なのかもしれない。託児施設が近くにあれば、いいのだけど。
トイレと風呂掃除の時間(ドアの向こうでは子どもが待機している)以外はいつも一緒に過ごしていたので、当時の私にとって子どもを人に預けるのは相当高いハードルだった。新しい仕事の面接や急な体調不良に備えて、ファミリーサポートや一時預かりに登録はしていたものの、実際に利用したのは2、3回だった。
海外では、子どもを産んだ後でもシッターさんを依頼して夫婦で夜出かけるという話を聞き、「今の自分の状況では、子どもが高校生くらいになるまで不可能」と思ってクラクラしたものだ。
「もっと託児を気楽に利用できるようにならないと、自分がもたない」ということは、いつも考えていた。しかし、本を読むために託児を利用するという発想はなかった。託児をするに値するのは、やはり通院や買い物、美容室くらいと決め込んでいた。
「自分の好きなことをするために託児を使ったっていいじゃない」
そう気づいて、ふと、「図書館」と「託児」で検索をかけてみた。すると、ポロポロと東京や地方の公立図書館で託児サービスを行っている、始めた、という情報がヒットした。
営利事業がサービスを考えるのは当たり前だが、図書館のような公営の場所がサービスをするという発想がなかったので、私はものすごく驚いた。そして、どうして近くの図書館にはそのサービスがないのか、よその図書館ではどうやってそのサービスが始まったのかを知りたくてたまらなくなった。
とにかくそのサービスがうらやましい私は、ごく自然に「じゃあ、やっているところに電話して聞いてみよう!」と、携帯を手にしていた。